『 昔の友達にもう一度 』
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二人用台本(最後のセリフのみ、鬼の子として。年齢、性別は問わず)
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幼き日に会った友人との再会の場面。しかし友人はこちらを覚えていないらしい。
私と君は、以前会ったことがあるはずだ。
両の目元に対称にある黒子と、血のような赤茶色の巻き毛…。
君は私が子供の時分に会った鬼の子に違いない。
…しかしツノは?ツノはどうしたのかね?君には雄牛のようなツノがあったはずだ。
あの頃はまだ可愛らしいものだったが、今の君ならばさぞ立派なツノになっていただろう。
は?勘違い?…そんなはずはない。君は忘れているだけなのでは?
私のような平凡な人間はそんじょそこらにいるからなぁ。忘れたとしてもおかしい事じゃない。
君が忘れたとしても、私は君の事を覚えているのだ。
ジリジリと蒸し暑い夏の日。私は田舎にある母の実家に帰省していた。
そこへ行くのは物心がついてからは初めてで、私は都会とは違う田舎の夏に好奇心で胸を踊らせていた。虫をおいかけ、透き通る川で水遊びをし、夜は満天の星空を眺め…。
私にとって心身共に健やかに過ごせた、最高の夏だった。
君と会ったのはその時さ。君はあの家の隣にある、神社の御堂に住んでいた。
不思議な事に君の姿は私にしか見えなかった。私は君を何度も遊びに誘った。
虫取り、水遊び…楽しい時間を君と共有したかったんだ。
しかし君は御堂を出てこなかったね。
君が御堂を出たのは、私が毒虫にやられて寝込んだ時だ。
君は誰に見つかることなく、横になる私の傍にやって来て刺されたところを撫でてくれた。
痛みも、熱も、君に撫でられるとすーっと引いていく。
急に元気になった私をみて、家族は驚いていた。
君の話をすると、神様が救ってくださったに違いないと君の御堂にお参りに行った。
どうだね?私の事を思い出してくれたかね。
君は私の恩人なんだよ。帰省の度、私は君に会いたくて何度もあの神社に行った。
しかし君はいなかった。夢を見ていたとは到底思えないのだがね。
…そうか、ここまで話しても思い出してはくれないか。仕方ないね。私の話はこれで終いだ。
さて、そろそろ連れて行ってもらおうか。
なぁに、未練なんてないのさ。昔の友人にも会えた事だしねぇ。
「…思い出したよ。ツノはね、取り上げられてしまったんだ。
僕はあの時、本当は君を迎えに行ったんだよ。それなのに助けてしまったから。
罰としてツノと君との思い出を取り上げられてしまったんだ。
…君を失ったらほら、戻って来たよ。…悲しいよ…。僕も君と遊びたかったんだよ。
折角また会えたのに…君は今度こそ…。」
・・・おしまい・・・