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『クリぼっちと手袋』

開運小天さん「クリスマスエレジー」に寄せて作ったお話。

​「ひとりぼっちは寂しい事じゃない、誰かを助けるには身軽な方がいい」そんな歌詞に感銘してできた作品。

「ただいまぁ~…おかえりぃ、っと。よっ、ほ…っ痛!ックソ、誰だよこんな所にダンボール置きっぱにしたの!…俺か。」 

 

朝、実家から届いた仕送り。家庭菜園でとれた野菜だの、レトルトだのお菓子だの…何だこれ?中身がパンパンに詰まった紙袋が底の方に…。 

 

「手袋?え、こんなに大量に?どうするんだよこんなに!」 

 

(電話) 

「あ、母さん?仕送りありがと。ところでさ、何あれ…?大量の手袋。…は?いやいやいや、ハマったからっていくらなんでも作り過ぎ、ってかいらんわこんなに!数えたら二十って…おかしいだろ?家内制手工業か?手袋屋でも始めるのかよ。…配れるところに配ったらいいだろ?寄付とかすりゃいいじゃん、なんで俺に送るんだよ!」 

 

は 

 

「友達作りのきっかけに、って…余計なお世話だよ…!今時はな、手編みなんて流行らねぇの!他人の母ちゃんのおにぎりを食えない奴の方が多いんだよ!手編みも一緒!…ぁあっ、泣くなよ…わかったよ。」 

 

幼少期から友だちを作るのが苦手な俺を、母さんは何かにつけ心配していた。 

だからって、手袋を配るとか…逆に変な奴に見られるじゃんかっ…。はぁ…。 

 

テレビを付けると、どこのチャンネルもクリスマス特集。家族で!カップル向け!友達同士ワイワイ!…うっぜぇ…。 

 

「こんなの、ぼっちには関係の無いイベントだ。」 

 

炬燵だけが暖かかった。 

 

(間) 

 

「さっぶ…!…え、え?え」 

 

消した記憶が無いのに部屋が真っ暗になっている。スイッチを押しても、付かない。停電?…しかし窓の向こうは電気がついている。 

 

「俺ん家だけ?ブレーカーか?…違うな。…クソ、なんだよ。…うぅ」 

 

訳の分からないまま、とにかく寒い。 

 

(インターホンがなる) 

 

この声は 

 

「こんばんは…あ、大家さん。はい。うちも電気が付かなくて…え、修理は明日ぁ?…わかりました。友だち…いや、はい。大丈夫です。」 

 

頼れる奴なんていない。 

こんな時、友だちがいれば一晩家に置いてもらえたりするのかな…。 

 

「はぁ(ため息)…ううぅ。だめだ、寒過ぎる…。ネカフェにでも行くか。」 

 

(外) 

「…満室。」 

 

え、クリスマスって家族や恋人や友達と過ごすんじゃねぇのかよ。ぼっちの民どんだけいんだよぉおお。 

ここも、ここもここもここも…満室。 

 

「帰ろ…。」 

 

(とぼとぼと歩く。) 

 

「げ」 

 

街灯の灯りがほとんど届かない道端で、オジサンがうずくまっている。酔っ払いか、クリスマスではしゃいで潰れたか…。 

こういうのには関わっちゃいけない。無視だ、無視…。 

 

「…ぁあっクソ!」 

 

このクソ寒い時にこんな道端にいたらどうなるか、想像せずにはいられなかった。 

 

「大丈夫…ですか?…うわ、冷た!」 

 

何時からここにいるんだ? 

オジサンは腹を押さえ、声にならない声で痛みを訴えている。そのすぐ横には、プレゼントの入った紙袋。家に帰る途中だったのか。酔っ払って具合が悪くなったのとは違うらしい。 

 

(119番に電話した。) 

「もしもし?道で具合の悪そうな人が…お腹抑えてて、はい、意識はあるんですけど。」 

 

初めて、救急車に乗った。 

 

病院の椅子に座っていると、小さな子どもを連れた女の人が青ざめた顔で現れた。オジサンの家族かな…。 

 

オジサンは無事だった。 

ただ、あと少し処置が遅れていたら危なかったと、看護師さんが教えてくれた。 

 

「はぁ、良かった。…あ、どうも。…いえ、たまたま通りかかっただけなんで、そんな、いや、大丈夫です!それより無事で良かったです。」 

 

奥さんが何度も何度もお礼を言ってくれた。子どもも腫れぼったい目で俺を見つめていた。あ、そうだ。 

 

「これ、あの、きっと渡したかったものだと思うんですけど。」 

 

俺はオジサンが持っていた紙袋を奥さんに渡した。子どもが興味深そうに中を覗き込む。奥さんは紙袋の中のプレゼントを手に取り、中を開けた。中身は 

 

「それじゃ、俺はこれで。…お礼なんて、結構ですよ。お大事に。」 

 

(自動ドアの音) 

「はぁ…。」 

白い息が夜の空気に溶けて消える。でも不思議と、先程よりも寒くはない気がした。 

 

オジサンのプレゼントの包みから出てきたのは、大人用と子供用の手袋だった。不揃いな編み目、もしかしてオジサンの手編み? 

 

「あの人、いつの間にこんな…。」 

 

メッセージカードを見て、奥さんの目からはポロポロ涙がこぼれた。 

 

(翌日) 

「あの…うちの母が編んだんですけど…誰か貰ってくれる人がいないかと思いまして。」 

 

翌日、俺は勇気を振り絞って大学のボランティアサークルを尋ねた。リア充の集い、と一時馬鹿にしていた事を申し訳ないと心で謝りつつ、手袋を見せる。断られても仕方ない、でももし、誰か喜んでくれる人がいるなら…。母がただの趣味で編んだ手袋だけど、人の手が編んだものの温もりは知っている。 

 

✼✼✼ おわり ✼✼✼ 

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