『 恋 文 』
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一人用台本(時代物、男性向)
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上記画像はサムネとして使用可能。
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花街の女を身請けしたかった男の話
足しげく通ってやったってぇのに、なんだよその態度は!感謝されても、こんな酷ぇ仕打ちを受ける筋合いは無ぇぞ!ったく、こんな場末で、お高く止まりやがって!…好きだ会いたいって、文もくれたじゃねぇか!は?手練手管ぁ?!ぁあーっ!…こんな所、二度と来てやるもんかっ!
東の空が薄ら明るい。これから段々に町は明るく照らされるってぇのに…俺はどんより。
色街じゃ惚れた方が負け。んなのわかりきってる。…でもよ、いぃ女だったんだよ。一度花魁道中ってやつを拝まして貰ったが、あんな人形みたいな奴より、お前の方がずっといぃ女だった。肌は白粉なんか塗らなくても白かったし、肉付きも程よく俺好みでよぉ。…俺の親の愚痴も、仕事の愚痴も嫌がらずに聞いてくれた。そしていつだって、最後に優しく微笑んでは慰めてくれたっけ。俺はその度に心持ちが軽くなって救われてよ。ほんとにお前は菩薩のような女だった。
それなのによ…。
「お前を身請けしたい」
俺は稼いだ銭をアイツに逢いに行く他は節制して、溜め込んでいた。喜ばしてやりたかったんだよ。何より俺がアイツと所帯を持ちたかったんだ。心底惚れてたんだよ。だから満を持して、俺は昨夜アイツを迎えに行ったんだ。
「バカ言ってんじゃないよ。なんでアタシがお前さんなんかに身請けされなきゃならないんだい。頼んでもないのにさ。」
頼むような女じゃねぇだろ、お前は。俺はきゅっと唇を結んであの苦界で耐えてたお前を知ってるんだぜ。親が借金をする度に年季が延びて、新しい妓が増える度に世話を焼いて。年増になってくお前に、店の主人は辛く当たりやがる。それでもお前は…。
はぁ…。ダメだ、やっぱり俺はお前が好きだ。
翌日、少し頭が冷えた俺はもういっぺんお前を訪ねた。謝ろうと思ったんだ。そしてもう一度言うんだ。「夫婦になって欲しい」って。「俺にはお前しかいねぇ」って。
「いま…なんて?」
「なんべんも言わせん無ぇ。辛気臭くならぁ、あの女は死んだ。客と心中しやがったんだよ。」
嘘だ!だって、俺は昨日…。
「いつ、いつだ!?」
今朝方、と店の主は言った。
「お前身請けしようとしたんだって?アイツの借金、まだたんまり残っててなぁ。旦那になるつもりだったんだろ?その銭…」
「あいつは…どこだ?」
「裏山の寺さ。死んだ遊女はみんな、あすこに運ばれる。今頃経を読まれて極楽浄土だろ」
俺は持っていた銭を主人に投げつけた。
死んだ…?心中?!んなわけあるか、馴染みの客なんて俺だけだったはずだ。心中するなら相手は俺以外にいないはずだ…!
門を過ぎた寺の入口横の、ツツジで囲まれた庭先に、ござの上に横たわる男と女。
住職に止められるのも構わずに、顔にかけられた白い布を剥がすと、白粉を塗らなくても真っ白なお前の…。
「…なんで俺じゃねぇんだよ。なぁ、おいっ…!なんで、なんで…っ」
「行きずりだそうだ。相手は国を脱藩して追われ、行き場を失った浪人だ。そうだ、これはおそらく、お前に宛てたものだろう。」
住職は俺に、血で汚れた文を差し出した。その宛書きには見慣れたお前の字で、俺の名前が書いてある。
「あんたが親にも、棟梁や客にも強く出られないのはね、あんたが誰より優しいからよ。こんな枯れ際のあたしにだってあんたは飽きずに逢いに来てくれた。あんたみたいな優しい人は表の世界でいい人見つけて、幸せになんなきゃだめよ。こんな所に来るのはおしまいにしなきゃだめ。そうじゃないと、いつか不幸が移ってしまう。苦しみを分かち合うなんて、アタシはごめんだよ。」
それは今までお前に貰った文の中で一番、情のこもった文だった。