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『存在のキワ』

(町の音) 

少年:あれは! 

「おーい!」 

あれ?気付いてくれない…。 

「おーい!おーいってば!」 

えー、聞こえてないの?あ、そうだ、名前を呼べばいいんだ! 

 

「…あれ…なまえ?なんだっけ? 

あれ?…待って、待ってよ!教えて!」 

 

…君は誰? 

 

「僕だよ、僕!こんなに呼んでいるのに!」 

 

…僕って、誰だっけ? 

 

おかしいぞ、どういう事だ?まるで僕の存在がないみたいに。

歩く人が僕をすり抜ける。

ショーウインドーには僕だけがうつっていない。 

 

「僕はここにいるのに!」 

 

僕は誰?何?どうして? 

 

(無音になり足音だけが響く) 

 

死神「ごめんね、遅くなっちゃって。途中で大事故かあったものだからさ~。二十人分の処理は手間がかかるもんでね。」 

 

少年「…」 

 

死神「地縛霊になる寸前、間に合ってよかった~。」 

少年:だれ?僕が見えるの? 

死神「よっく見えるよ。」 

少年:おかしいんだ、誰も僕が見えない。ガラスにもうつらない。声も届かない…。 

死神「それは君が生きていないからだよ。」 

少年:…生きて、いない? 

死神「君はそこの交差点で右折する大型トラックの後輪に挟まって死んだ。」 

少年:…!ぁ…あぁ… 

死神「おっ、と、ごめんごめん。忘れた方がいい情報だったね。つまり君は幽霊さ。そして私は死神、君をお迎えに来たってわけ。ほっとくと君、ここで地縛霊になっちゃうからね。ちゃんと処理してあげないと…。」 

少年:僕は、僕は 

死神「イマに未練タラタラだったんだね。だから自分で成仏できなかった。そういう事かな。」 

少年:未練… 

死神「何か心残りがあったんだろうね、やりたい事とか、誰かに伝えたい事とか…。よくある話さ。」 

少年:だめだ、思い出せない…。 

死神「だよねぇ。記憶も曖昧になってきてるでしょ?けどね、そうやってヒトは次へ進むんだ。どんなに未練があっても、次へ。」 

少年:次…へ? 

死神「さぁ行こう。君がいない未来はもう動き出してるよ。次は君がいる未来へ…私が連れて行ってあげよう。」 

 

✼✼✼おわり✼✼✼ 

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