『 地震猫 』
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一人用台本(声劇というより朗読用)
地震が起こる前兆として、地震雲が空に現れることや深海魚が浜に打ち上げられることなどがあげられますが今回はその中の一つ、『 地震猫』についてお話しましょう。
『 地震の前は猫が高い所に行く』と言いますが、この猫、地震が起こるから高いところに行くのではなく、高いところに行くから地震がおこる、というのです。
地震なんて起きて欲しくないですから、私達はこの猫を地下深くに閉じ込めてしまう事にしました。可哀想だな、と思いましたが地震によって失われる何千、何万の生命を守るためです。致し方ない…。
猫を地下へ閉じ込めて以来、頻繁に起こっていた地震はピタリと止みました。ところが、代わりに空が厚い雲に覆われる日が続くようになりました。陽の光を浴びることが出来ない猫が雲を呼んだのだと言う人もいました。陽の光が当たらないことで作物が育たなくなり、人々も徐々に生気を失っていきました。猫は地上に戻されました。すると雲は徐々に消え去り、太陽が顔を出しました。
人々は実はこの猫が神の御使いで、大切にしなければならない存在なのだと考えるようになりました。
太陽が顔を出して以来、晴天の日が長く続きました。雨は降らず、やがて大地はひび割れ、人々は食料を得られず飢饉に襲われました。人々は考えました。『猫様がなんとかしてくれる』水が欲しい、今はとにかく水が…!人々は猫を枯れた井戸へ落としました。大丈夫、猫は身軽だ、死ぬ事は無い。大丈夫、どうせ枯れ井戸だ。雨が降ったら助けてやればいいのだ。落ちていく猫がか細い声で一つ鳴きました。それは人々が最後に聞く、猫の鳴き声でした。
雨は降りました。田畑を潤し、池を満たし、川は流れを取り戻しました。人々は猫に感謝しました。やがて、あの井戸にも水が戻ってきました。井戸の水はどんどん増えて溢れ出しました。溢れた水は止まることなく、勢いを増し、そして人々を襲いました。すがる猫はもういません。…すがろうとする人も、もういません。
猫が顔をあらうと雨が降ると言います。
猫が高いところに行くと地震がくると言います。
あ、あんな所に猫が…。
・・・おしまい・・・