『 人魚のうた 』
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一人用台本(恋がうまくいかない女性の一人語り)
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過去の嫌な思い出を振り返って鬱々としているけど、不思議な人魚の唄に心が洗われ、元気を取り戻していく。
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「歌」については、アカペラでリバーブなどのエフェクトで響かせることを推奨。
(人魚の銅像が悲しげに海を見つめている)
「あなたはいつも哀しそうな顔をしているのね」
その瞳に映っているであろう海は、夏の光を反射して、遠くまでキラキラと輝いている。
海風に頬を撫でられながら、私もその視線の先をただ眺めていた。
(・・・回想・・・)
(スマホが鳴る)
「あっ…(ピ)も、もしもし?…うん、久しぶりだね。元気…だった?
…全然連絡くれなかったから。忙しかったんだよね?…お疲れ様。
大変なお仕事だもんね…私、あまり邪魔しちゃいけないかな…って。…え、なに?」
『お前とは別れたい』
耳慣れた言葉。今度は貴方の声で聞くことになるなんて…。
「え…なんで?上手くいってたよね、私たち。
…私、貴方のこと考えて、負担にならないようにって、考えて…」
だって前の彼にはそれが原因で振られたから。
毎日連絡していたら、鬱陶しいと言われた。
だって、私が連絡しなきゃ、全然連絡くれない人だったし。
失敗したくなくて、今度の彼へは週一でメッセージを送るだけにしてた。
それが…ダメだったの?
「私と付き合う前から、好きな人がいる…?え?…何?」
その人と上手く行きそうなんだって。
「ふ…ふーん、そうなんだ。じゃあ、仕方ないよね」
(・・・回想終了・・・)
何よそれ。そんなのってある?私は貴方にとってなんだったの?繋ぎ??
今度は、今度こそは大丈夫だと思ったのに…!
「はぁ…私って恋愛に向いてないのかな」
人魚は答えない。彼女はただ、海を見つめていた。
もうさ、イチイチ落ち込むのも疲れちゃったんだよね。
いい人を見つけて、付き合ってもらえることになっても、一年も経たない内に振られちゃう。
鬱陶しい位好きになっちゃだめなの?
気を使っちゃだめなの?
元々好きな人がいた?
私といてもつまらない…って
気の利いたギャグでも言えと?
「…しんどい」
私はこのまま、ずっと一人なんだろうか。
(歌)
風にのって踊るような、美しい歌声が聞こえてくる。歌っているのは…
「え」
人魚だ。私の隣に立つ人魚の銅像が海に向かって歌っている。
私は暫く聞き惚れていた。
心を洗ってくれるような、しかしどこか悲しげなその歌に、感情が重なり涙が零れた。
「慰めてくれてるとか?…まさかね」
海はどこまでもキラキラと輝いている。
私もまた、誰かを思って輝くことができるだろうか。
ふと見上げた人魚の横顔が一瞬、微笑んだ気がした。
まるで私を元気づけてくれているかのように。
・・・おしまい・・・